『木はイオンを植えています』

最初に違和感を覚えたのは、テレビCMだった。

日曜日の夜。
24時間テレビの終盤、疲れた司会者たちが涙をこらえながら募金額を読み上げている。その途中で、地方局のCMに切り替わった。

画面には、制服姿の従業員と、近所の子どもたちが映っていた。
みんな軍手をしている。
小さな苗木を持って、笑っている。

ナレーションが流れる。

「イオンは木を植えています」

ここまでは、よくある企業CMだった。

「たくさん、たくさん、植えています」

画面は、植樹祭の様子に切り替わる。
家族連れや、自治会のおじさんたち、老人会、少年野球チームの子どもたちが土に触れる。
ショッピングモールの駐車場の端に、次々と苗木が植えられていく。

そして最後に、白い背景に緑色の文字が出た。

木はイオンを植えています。

私は、リモコンを持ったまま固まった。

聞き間違いではない。
字幕にも、そう出ていた。

「木はイオンを植えています」

その文だけ、異様だった。
BGMもなかった。
子どもの笑顔もなかった。
ただ、白い画面に緑色の文字。

数秒後、いつものロゴが出た。

AEON

それだけだった。

翌日、私は職場でその話をした。

「昨日のイオンのCM、見ました?」

誰も見ていなかった。

「木はイオンを植えています、って言ってたんですよ」

同僚の一人が笑った。

「逆じゃないですか。イオンは木を植えています、でしょ」

「いや、逆だったんです」

「疲れてたんじゃないですか」

そう言われると、それ以上は言いづらかった。

しかし、その日の昼休み、私は近所のイオンモールに行った。
確かめたかった。
理由はそれだけだった。

平日の昼だったので、館内は空いていた。

入口を入ると、すぐに違和感があった。

観葉植物が多い。

以前から置かれていたのかもしれない。
けれど、こんなに多かっただろうか。

インフォメーションの横にもあったし、ATMコーナーの前にも植えられていた。
エスカレーターの下に植えられていたのは意図を図りかねた。
保険相談窓口の背後や、フードコートの柱の根元にまである。

それらは鉢植えではない。
床から直接生えているように見えていた。

私はしゃがんで、エスカレーター下の木を見た。

床のタイルに、丸い穴が空いている。
その穴から幹が伸びていた。

穴の周囲は、きれいに処理されている。
後から工事したようには見えない。
まるで最初から、そういう設計だったかのように。

近くにいた清掃員に聞いた。

「これ、前からありましたっけ」

清掃員は少しだけこちらを見て、すぐに目をそらした。

「木ですか」

「はい」

「植えていますから」

「イオンが?」

清掃員は答えなかった。

代わりに、持っていたモップをゆっくり動かした。
木の根元だけは、避けるようにして。

そのとき、館内放送が流れた。

「本日も、イオンモールにご来店いただき、ありがとうございます」

いつもの声だった。

「ただいま、一階センターコートにて、地域ふれあい植樹パネル展を開催しております」

私はセンターコートへ向かった。

そこには、パネルが十数枚並んでいた。
イオンの植樹活動を紹介する展示だった。

「地域とともに育つ森」
「未来へつなぐ緑」
「お客さまとともに植えた苗木」

そういう言葉が並んでいる。

しかし、一枚だけ内容がおかしかった。

写真には、どこかの更地が写っていた。
まだ建物はない。
ただ、地面に小さな木が一本だけ立っている。

説明文にはこう書かれていた。

開店前植樹
店舗建設に先立ち、木を植えます。
木が十分に地域へ根を張ったのち、店舗が形成されます。

形成。

建設ではなく、形成。

私はその言葉をスマホで撮ろうとした。
その瞬間、背後から声がした。

「撮影はご遠慮ください」

振り返ると、スーツ姿の男が立っていた。
警備員ではない。
名札には「環境・社会貢献担当」と書かれていた。

「すみません。展示なので、撮っていいのかと」

「撮影はご遠慮ください」

男は同じ文を繰り返した。

「この『形成』って、どういう意味ですか」

男は笑った。
笑ったが、目は変わらなかった。

「地域に根ざす、という意味です」

「木が先なんですか」

「はい」

「店舗より先に?」

「はい」

「木がイオンを植えている、ということですか」

男は、そこで初めて黙った。

数秒後、館内照明が一段暗くなった。

私は、体の中が冷たくなるのを感じた。

男は小さな声で言った。

「その表現は、まだ放送していません」

「昨日、テレビで見ました」

「どちらの地域で?」

私は答えなかった。

男の表情が、ほんの少し変わった。
確認するような顔だった。

「お客様。少しだけ、お話を伺ってもよろしいでしょうか」

その言い方で、私は逃げた。

センターコートから専門店街へ入り、早足で出口へ向かった。
しかし、出口が遠い。

こんなに長かっただろうか。

無印良品の前を通った。
次に、また無印良品の前を通った。

同じ店ではない。
店内の配置が少し違う。
しかし、看板は同じだった。

その先に未来屋書店があった。
その隣にも未来屋書店があった。

私は立ち止まった。

館内案内図を探した。
柱に貼ってある案内図を見つけた。

現在地の赤い印がなかった。

代わりに、緑色の点があった。

その点の横に、小さくこう書かれていた。

イオン発芽の地

私は息を止めた。

そのとき、子どもの泣き声が聞こえた。

フードコートの方だった。
見ると、母親らしき女性が小さな男の子の手を引いていた。

「早く帰るよ」

母親は焦っていた。

男の子は泣きながら、床を指さしていた。

「ねえ! ここ、さっきも通った! 早く帰ろうよ!」

母親は答えなかった。
ただ、子どもの手を強く引いていた。

その母親と目が合った。

彼女は、私に向かって口だけを動かした。

「外に出ないで」

そう見えた。

しかし直後、彼女は子どもと一緒に専門店街の角を曲がった。
追いかけると、そこにはトイレしかなかった。

女子トイレ、男子トイレ、そして多目的トイレ。
その奥に木が一本生えていた。

太い木だった。
明らかに屋内に置く大きさではない。

幹には、「従業員専用口」という白い紙が貼られていた。
木の根元に、細い隙間があった。

扉ではない。
根と根の間に、人一人が通れるくらいの空間ができている。

奥は暗かった。

私は引き返そうとした。

その瞬間、背後で館内放送が鳴った。

「お客様にご案内申し上げます」

声が変わっていた。

さっきまでの明るい声ではない。
低く、乾いた声だった。

「ただいま館内にて、未登録のお客様が確認されております」

私は動けなくなった。

「未登録のお客様は、お近くの根元までお越しください」

根元。

「繰り返しご案内申し上げます。未登録のお客様は、お近くの根元までお越しください」

私は走った。

どこへ向かっているのか、自分でもわからなかった。

エスカレーターは止まっていた。
エレベーターの表示は、すべて「B3」になっていた。
このモールに地下三階はないはずだった。

専門店のシャッターが、次々と閉まり始めた。

ただし、閉まる音がしない。

シャッターの代わりに、緑色の蔓が降りてくる。
店の入口を覆い、隙間をなくしていく。

私は非常口の表示を見つけた。
緑色の非常口マーク。
走って近づいた。

表示の下には扉があった。

開けると、外ではなかった。

そこは植樹祭の会場だった。

空は曇っていた。
広い更地に、何百人もの人が並んでいる。

全員、軍手をしている。
全員、苗木を持っている。

子どももいる。
老人もいる。
従業員もいる。
さっきのスーツの男もいる。

男はこちらを見て、静かに言った。

「まだ早いです」

私は扉を閉めた。

背中を扉につけて、息を吐いた。

スマホを取り出した。
圏外だった。

ただ、通知が一件来ていた。

イオンモールアプリからだった。

ようこそ
あなたの登録が完了しました

私はアプリを開いていない。
そもそも、登録した覚えもない。

通知を開くと、画面に会員証が表示された。
名前の欄は空白。
ポイント残高も空白。

ただ、会員種別の欄に、「」とだけ書かれていた。

足元で、タイルが割れる音がした。

見ると、床の隙間から細い根が出ていた。
根はゆっくり伸びて、私の靴の周りを囲んでいた。

痛みはない。
ただ、逃げられない。

館内放送が、また流れた。

「木はイオンを植えています」

今度は一度だけではなかった。

「木はイオンを植えています」

「木はイオンを植えています」

「木はイオンを植えています」

声は館内のすべてのスピーカーから聞こえていた。
しかし途中から、スピーカー以外の場所からも聞こえてきた。

床から。
柱から。
観葉植物から。
閉まったシャッターの向こうから。
フードコートのテーブルの下から。

私は根を引きちぎろうとした。
細い根なのに、硬かった。
指に土の匂いがついた。

そのとき、目の前の木の幹に、縦に裂け目ができた。

裂け目の奥に、明るい場所が見えた。

イオンの食品売場だった。

野菜売場、鮮魚売場、総菜売場。
レジ前の列、特売のポップ。
普通の買い物客が列を成している。

私が知っているイオンだ。
ここに出れば、日常に戻れる。

私はそこへ向かって手を伸ばした。

誰かがこちらに気づいた。
買い物かごを持った女性だった。

女性は私を見て、眉をひそめた。

そして、近くの店員に言った。

「すみません。観葉植物のところ、なんか変です」

店員は慣れた様子で近づいてきた。

「申し訳ございません。すぐ整えます」

整える。

店員は、幹の裂け目を両手で押した。
裂け目が閉じていく。

私は叫んだ。

声は届かなかった。

最後に見えたのは、食品売場の天井から吊られた緑色のポスターだった。

イオンは木を植えています。
たくさんたくさん植えています。

その下に、小さく、もう一文あった。

木が選んだ場所に。


この文章はChatGPTに以下の文章を投げたところから始まっている。

24時間テレビで「木はイオンを植えています」ってCMが流れてきたら恐怖しちゃうね俺は

パニックホラーとしての「木はイオンを植えています」を膨らませてほしい
「変な家」的な感じで

なかなか完成度の高いパニックホラーになった。